『オニ文化コラム』Vol,31
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師
鬼文化を紹介して31回目。今回は漢字、木偏に鬼と書く「槐(エンジュ)」を紹介します。平安中期(10世紀)に作られた日本最古の百科辞典『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』には「ゑにす(エニス)」とありますからいつ頃からか発音が転化したものと思われます。
実は日本原産ではなく中国原産。太古から存在し、華北を代表する樹木だったそうです。それだけに槐への信仰があります。寺井泰明氏の論文「槐の文化と語源」(桜美林論考. 人文研究 7, 2016年)に詳しいのですが、例えば槐位、槐座、槐門、槐宰などの文字が高位高官を指すものとして用いられたそうです。
寺井氏によると「“槐宸” とか“槐掖” と称して宮廷・宮殿を、“槐省” で三公の官署を表すことにもなる。これらは単に言葉の上でだけではない。槐は仁政を体現するものとして、実際に宮廷・宮苑や役所に植えられもした。また、都大路の街路樹についても、実はこうした政治的な寓意があったと見るべきであろう。槐衙と称された長安天街の槐の並木道は権力の公正と威厳を示すに十分であったろうし、漢代の上林苑にあった「槐六百四十株」31 をはじめとして、歴代の宮苑に槐樹が植えられたのも、そうした政治的な意味を体していたのである」とのことですから、意義ある樹木だったことが伺えます。
ただ、なぜ木偏に鬼と書くのかについては確固たる説はないようです。寺井氏は「塊」「傀」など他の漢字などが「丸くて大きなかたまり」といった意味合いで共通していることから、槐のコンモリ生い茂った様から「鬼」が使われているのかな?と推測されております。
という中国のお話から一転して、日本ではどうなのかと言うと、そこまでの扱いではない気がいたしますが、『今昔物語集』(12世紀~)には庭の前に植えてある記述が出てきます。そして現在に至る中で、日本らしい「語呂合わせ文化」を育みました。
どういう語呂合わせかというと「延寿(寿命が延びる=長寿)」、「縁授(縁を授かる=例えば子宝)」。「槐」を用いた箸や面、表札、手鏡等の色々の製品いずれも縁起が良い意味合いを持っております。中国由来の鬼の木が、日本で縁起の良い木に・・・正に文化史ですね♪
山崎 敬子 / Yamazaki keiko
玉川大学 芸術学部講師
早稲田大学メディア文化研究所 招聘研究員
小田原のまちづくり会社「合同会社まち元気小田原」業務推進課長
民俗芸能しいては日本文化の活性を目指し中心市街地活性化事業に取り組んでいる。
元広告業界専門新聞編集長であったことから日本ペンクラブに所属。
現在、広報委員・獄中作家委員などに名を連ね活動している。
(社)鬼ごっこ協会会報などでコラムを担当
所属学会:民俗芸能学会・藝能学会・日本民俗芸能協会ほか