『オニ文化コラム』Vol,35
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師
2月は如月(きさらぎ)。「着(き)更衣(さらぎ)」とも言われます。春直前の寒さで衣を重ね着する様を表現した当て字です。そんな2月ですので衣に関わる鬼をば。
あの世に渡る三途の川(葬頭(そうづ)河(か))のほとりにいて、ここに来た亡者の衣を全部剥ぎ取るお婆さん姿の鬼「奪(だつ)衣(え)婆(ば)」です。脱衣婆とも葬頭(そうづ)河(か)婆(ば)とも言います。
衣をはぎとってどうするのか?まず奪衣婆が亡者の衣を全部はがします。そして河のほとりの衣領樹(えりょうじゅ)に居る懸(けん)衣(え)翁(おう)が衣領樹の枝に衣をかけ、その枝の垂れ具合で生前の罪の重さを計ります。なぜ重さを量るのか・・・両者が地獄において亡者の審判を行う十王(じゅうおう)の配下であることに意味があります。
十王とは日本のお葬式にも関わる存在です。総ての生き物は没後に中陰(ちゅういん)(死の瞬間から次の世に生を受けるまでの時期の存在)となり、7日ごと初七日から四十九日及び百ヶ日、一周忌、三回忌と順次、生前の行いが10人の王(仏教では菩薩・如来)により審判されるという信仰が日本で平安時代末期に広がりました。
この審判は順番に①秦(しん)広(こう)王(おう)(初七日。不動明王(ふどうみょうおう))②初江(しょこう)王(おう)(十四日。釈迦(しゃか)如来(にょらい))③宋(そう)帝王(ていおう)(二十一日。文殊菩薩(もんじゅぼさつ))④五官(ごかん)王(おう)(二十八日。普賢菩薩(ふげんぼさつ))⑤閻魔(えんま)王(おう)(三十五日。地蔵(じぞう)菩薩(ぼさつ))⑥変成(へんせい)王(おう)(四十二日。弥勒菩薩(みろくぼさつ))⑦泰山(たいざん)王(おう)(四十九日。薬師(やくし)如来(にょらい))。この7回の審理で決まらない場合は、3回追加されて⑧平等(びょうどう)王(おう)(百ヶ日忌。観音(かんのん)菩薩(ぼさつ))⑨都市(とし)王(おう)(一周忌。勢至菩薩(せいしぼさつ))⑩五道転(ごみちてん)輪(りん)王(おう)(三回忌。阿弥陀(あみだ)如来(にょらい))となります。と言う訳でこの審判の際に使う罪の重さデータをこのお婆さんとお爺さんが集めております。日本のお葬式では死後7日ごとの法事や年毎の回忌を行う風習が今も残っておりますが、コレ、実はこの信仰に基づくものなのです。ここにもオニが関わっているんですね。鬼、大活躍です。
山崎 敬子 / Yamazaki keiko
玉川大学 芸術学部講師
早稲田大学メディア文化研究所 招聘研究員
小田原のまちづくり会社「合同会社まち元気小田原」業務推進課長
民俗芸能しいては日本文化の活性を目指し中心市街地活性化事業に取り組んでいる。
元広告業界専門新聞編集長であったことから日本ペンクラブに所属。
現在、広報委員・獄中作家委員などに名を連ね活動している。
(社)鬼ごっこ協会会報などでコラムを担当
所属学会:民俗芸能学会・藝能学会・日本民俗芸能協会ほか