『オニ文化コラム』Vol,36
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師
3月21日、なんと雪が降っております。その雪に思いを馳せて東北の鬼について。
スパイスといえばエスビー食品。そのエスビー食品のロビーの正面に鬼神社があるのをご存じでしょうか。
なぜここ鬼神社が!?
この鬼神社は青森県弘前市の旧鬼沢村にあり、鬼を祀り、そして鬼の好物であるニンニクを奉納する神社です。7月12日(旧暦5月29日)の大祭では岩木町でとれるニンニクが奉納されるほか、ニンニク市がたつほどのニンニク神社!ちなみに津軽のニンニクは脳溢血やその後遺症である運動麻痺によく効くという民間伝承が残っております。
一方、エスビーさんはニンニクの効能を活かしたまま乾燥・粉末化することに成功し、「ガーリックパウダー」生み出した会社。この縁から昭和60年(1984年)、エスビーさんが同神社に分祠をお願いしたところ、展示館に分祠が許され、エスビー食品神社が生まれたのです。
さて、その鬼神社。「オニガミサマ」「オニジンジャ」とも。社伝によると延暦年間に坂上田村麻呂(天平宝字2年(758年)~弘仁2年(811年))が岩木山麓に鬼を祀った社を勧進し、その後今の場所に移ったとか。そんなこの地域に伝わる鬼は水田開拓を手伝ってくれた大人(オオビト)と伝わっており、農耕の神=良い神様として愛されております。
その気持ちが鬼神社の造形にも表れております。この神社拝殿の扁額には「鬼神社」と書かれているのですが、この「鬼」という字には上部の「ノ」が無い。角の無い優しい鬼ということを示していると言われております。
また、平安時代後半の製鉄遺跡が見つかっている事や鬼伝説と鉄作りに由来する地名が多い(十腰内(トコシナイ)、湯舟(ユブネ)、小屋敷(コヤシキ。金屋敷のなまったもの)など)事などから、大人=鬼は、農民に友好的な鉄作りの専門集団だったと推測する研究者も居ります。
民俗学の大家・折口信夫先生は「オは大きい意。ニは神事に関係するものを示す語。オニは神でなく、神を擁護するもの。巨大な精霊、山からくる不思議な巨人をいい、オホビト(大人)のこと」としております(『日本芸能史ノート』)
とするならば、神になった人間たちなのです。鬼は深いな…。
山崎 敬子 / Yamazaki keiko
玉川大学 芸術学部講師
早稲田大学メディア文化研究所 招聘研究員
小田原のまちづくり会社「合同会社まち元気小田原」業務推進課長
民俗芸能しいては日本文化の活性を目指し中心市街地活性化事業に取り組んでいる。
元広告業界専門新聞編集長であったことから日本ペンクラブに所属。
現在、広報委員・獄中作家委員などに名を連ね活動している。
(社)鬼ごっこ協会会報などでコラムを担当
所属学会:民俗芸能学会・藝能学会・日本民俗芸能協会ほか