『オニ文化コラム』Vol,48
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師
平成最後の3月。今回は「体に棲む鬼」の紹介を。腹に棲む鬼のお話です。
お腹と言えば…「腹の虫がおさまらない」「腹の虫の居所がわるい」という言葉があります。「腹が立って我慢できない」という意味です。この「腹の虫」。実は存在し、しかも種類がやたらに多く、それぞれに意味があります。これが面白い。腹の虫は戦国時代に書かれた『針聞書 (はりききがき)』という書物に詳細に解説されております。
『針聞書 (はりききがき)』。聞きなれない書物だと思いますが、これは永禄11年(1568年)に摂津国の元行さんが書き上げた医学書です。時期的には、あの織田信長が京都に入った時期ですから、ガッチリガッツリ戦国時代です。そして、この著者についてはいまだよく分かっていない人なのですが、どうやら現在の大阪府茨木市周辺の出身なのかしら?と言われています。ようするに分かっていません。
さて、そんな『針聞書 (はりききがき)』。内容としては針や灸の位置や打ち方や漢方薬の種類や使用法などを記した医学書なのですが、病気を63匹の虫で表現しております。虫です、虫。これが腹の虫。この虫たちはもちろん寄生虫やウイルスではありません。想像上の病の虫です。お腹が痛いのも、熱がでるのもそこに虫がいるからですヨ…ということにした解説書なのです。そういえば「虫の知らせ」「虫が好かない」などとも言いますね。日本人は昔から虫で感情や体調を表現していました。
この中に「鬼胎(きたい)」という、色は赤く黒い角をもち、猛牛のような顔ととぐろを巻いた体の虫がいます。最初は血の塊だったものが成長するとこの虫になります。なぜかは知りませんがこれは女性にのみ棲みつきます。左脇腹から子宮に移動します。この虫は気性が激しく、いつもストレスをためているそうで、この虫が子宮に移動すると必ずヒステリー状態になるとか。恐ろしいことに、鍼(はり)を指すとこの虫は逆ギレするらしい!そうすると症状は悪化するそうです。恐ろしい…。
この虫がいるという事は、戦国時代もヒステリー症状(解離性・転換性障害)の治療が存在したという事だと思いますが、女性限定というのがちょっと気になる自分です。
山崎 敬子 / Yamazaki keiko
玉川大学 芸術学部講師
早稲田大学メディア文化研究所 招聘研究員
小田原のまちづくり会社「合同会社まち元気小田原」業務推進課長
民俗芸能しいては日本文化の活性を目指し中心市街地活性化事業に取り組んでいる。
元広告業界専門新聞編集長であったことから日本ペンクラブに所属。
現在、広報委員・獄中作家委員などに名を連ね活動している。
(社)鬼ごっこ協会会報などでコラムを担当
所属学会:民俗芸能学会・藝能学会・日本民俗芸能協会ほか