2019.12.24

『オニ文化コラム』Vol,57

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
年の終わりだからこそ伝えたい鬼がいます。
 
『古語拾遺』という書物があります。平安初期(9世紀)に書かれた歴史書で、著者は斎部広成(インベノヒロナリ)。斎部(忌部)氏は古代には中臣氏と並んで祭祀を担当しておりましたが、皇極天皇4年(645)の大化改新後、中臣氏から藤原氏が出て政界で勢力を拡大するに伴い、奈良時代には中臣氏が祭祀関係の要職を独占するようになりました。これを憂いた斎部広成が自氏の伝承を同書にまとめました。
 
この『古語拾遺』の「吾勝尊(アカツノミコト)」のくだりに「鬼」が登場します。このくだりは、大雑把に説明しますと日本神話「国譲り」の箇所。大国主(オオクニヌシ)と事代主(コトシロヌシ)が去り、地上の支配権が高天原の神に譲られた神話についてです。
 
吾勝尊(アカツノミコト)は古事記では天照(アマテラス)大神と須佐之男(スサノオ)命の誓約で生まれた神として登場しており血統上はアマテラスの子供となります。そのアカツノミコトのくだりに「於是 二神 誅伏諸不順鬼神等 果以復命」という一文があり、ここに「鬼神」の文字が登場します。現代語訳しますと「それで二柱の神はもろもろの従わない鬼神(アラブルカミ)たちを誅伐して従わせ、ついに天界に報告しました」という意味。鬼は「荒々しい」と表現されております。
 
この「国譲り」神話は『日本書記』にも「故高皇産靈尊 召集八十諸神而問之曰 吾 欲令撥平葦原中国之邪鬼 當遣誰者宜也 惟爾諸神 勿隱所知 」とあります。ここでは「邪鬼」という表現。現代語訳すると「葦原中国の邪神を追い払って平定したいと思っている」というよう内容です。
 
さて、これらの鬼。「自分達に逆らう退治すべき者」という意味合いです。桃太郎伝説の鬼を思い出してください。日本各地に「(時の政権側にとって)退治すべき存在」としての鬼が確かに存在します。しかし、彼らには彼らの世界があります。彼らは決して「悪」ではないのです。何事も片方の言い分だけを聞いて判断してはいけない・・・鬼はそれを教えてくれる、大事なことを教えてくれる存在です。
 
皆様、本年もコラムをお読みくださりありがとうございました。どうぞよい年越しを。
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

玉川大学 芸術学部講師
早稲田大学メディア文化研究所 招聘研究員
小田原のまちづくり会社「合同会社まち元気小田原」業務推進課長


民俗芸能しいては日本文化の活性を目指し中心市街地活性化事業に取り組んでいる。
元広告業界専門新聞編集長であったことから日本ペンクラブに所属。
現在、広報委員・獄中作家委員などに名を連ね活動している。
(社)鬼ごっこ協会会報などでコラムを担当
所属学会:民俗芸能学会・藝能学会・日本民俗芸能協会ほか