2020.2.26

『オニ文化コラム』Vol,59

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術学部講師

 
現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染への対策に注力が注がれております。思い返せば人間の歴史は病との戦いの歴史でもあります。
 
人間の歴史は、病だけではなく服飾の歴史でもあります。養蚕もそのひとつ。日本に養蚕技術が伝わったのは弥生時代中頃とも言われますが、『古事記』に蚕に関する大宜都比売神(オオゲツヒメノカミ)と素戔嗚尊(スサノオノミコト)の神話があります。高天原を追放されたスサノオが空腹を覚え、食物を司る女神オオゲツヒメに食物を求め、女神は様々な食物をスサノオに与えました。「なぜすぐに用意できるのか?」と不思議に思ったスサノオが食事の用意をする女神の様子を覗いてみたら、鼻や口、尻から食材を取り出して調理していました。それを見たスサノオは「そんな汚い物を食べさせていたのか」と怒り女神を斬り殺してしまいます。すると、女神の頭から蚕が、目から稲が、耳から粟が、鼻から小豆が、陰部から麦が、尻から大豆が生まれました。この神話は『日本書紀』では月読命(ツクヨミノミコト)と保食神(ウケモチノカミ)の神話ですが、いずれも 五穀と蚕(布)がいかに大事な存在かを伝える神話です。
 
その蚕。鬼の名を持つ蚕がいました。大正時代以前の養蚕農家は、各地方で育成された在来種の蚕を飼育しており、富岡製糸場で有名な群馬県生まれの蚕も記録に残っております。その中のひとつが「鬼縮(オニシボ)」。群馬県庁のサイトによれば、嘉永2年(1849年)頃、佐藤国太郎さんによって選抜された品種とのことで、軽め絹の原料に適する平絹用の品種として、明治時代まで県内始め信州、甲州、奥州など幅広く利用されていたそうです。とはいえネットで繭の販売を調べてみると、日本在来種「鬼縮(オニチヂラ)」が現在も販売中。2粒440円(+税)とのことです(「繭と蚕の里山クラフト便り」より)。そういえば、着物にも絞り染めの一種に「鬼ちりめん」があります。普通のちりめんより、しぼ立ち(凹凸)が粗く座布団や風呂敷などに用いられています。
 
着物や蚕に「鬼」を見つけることができるのは、それだけ「鬼」が身近な存在である証だと思いましたので、紹介させていただきました。
 

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

玉川大学 芸術学部講師
早稲田大学メディア文化研究所 招聘研究員
小田原のまちづくり会社「合同会社まち元気小田原」業務推進課長


民俗芸能しいては日本文化の活性を目指し中心市街地活性化事業に取り組んでいる。
元広告業界専門新聞編集長であったことから日本ペンクラブに所属。
現在、広報委員・獄中作家委員などに名を連ね活動している。
(社)鬼ごっこ協会会報などでコラムを担当
所属学会:民俗芸能学会・藝能学会・日本民俗芸能協会ほか