2015.7.17

『オニ文化コラム』Vol,4

 
山崎 敬子
コラムニスト
玉川大学芸術楽部講師

いよいよ、夏到来です。
夏の民俗芸能といえば、盆踊りが一番有名でしょう。しかし、ここは鬼コラムですので、夏の鬼をご紹介したく思います。

 夏の民俗芸能は「風流(フリュウ)」の芸とも言われるほど、華やかな様相を呈しております。「風流」は万葉集では「ミヤビ」と読まれておりますが、平安の頃あたりから、祭礼で用いられる山車や装束などに施された華美な趣向を指して「フリュウ」と表現していたようです。さらに、『梁塵秘抄口伝集』には久寿元年(1154年)の今宮社御霊会において傘の上に風流な飾りの花を掲げて唄い囃した「風流(フウリヤウ)のあそび」をしたと書かれております。

 この御霊会といいますのは、疫病や災害をもたらすとされる不慮の死を遂げた方々(怨霊)を鎮送するための行事です。貞観5年(863年)に神泉苑で行われた御霊会では早良親王などの御霊がまつられております。後に各地の寺社で同様の行事が開催されて神輿渡御などの行列や風流・田楽と呼ばれる踊りなども加えられ、時期も疫病が多発する旧暦の5月~8月に集中するようになりました。そして、鎮送の際の芸能は華やかなことも多く、結果として夏の民俗芸能は「風流(フリュウ)」の芸とも言われるわけです。盆踊りもこれに含まれます。
そんなフリュウと鬼が合体した芸能が九州にあります。佐賀県に伝わる県指定重要無形文化財「面浮立」です(9月頃)。「浮立」という名称は、佐賀県と長崎県の陸部、いわゆる旧肥前国に分布しており、「フリュウ」の音に重きを置いていたことがうかがえます。

 五穀豊穣を感謝し、雨乞祈願や怨霊鎮魂、要するに悪霊退散を神に祈願しようという意味があるとも言われるこの芸能、体の前面に鼓を持ち、鉦(かね)や太鼓の音が響く中で踊る鬼面芸です。そして鬼の顔をした面を「浮立面」といいます。なぜ鬼の面を使うのか・・・諸説があり答えは未だ定まっておりません。追儺(ついな。鬼追い行事)の面であったとも言われております。しかし、由来は分からずとも、夏がきたら佐賀県のどこかで鬼が御霊鎮送のために踊っております。

 九州の鬼・・・列をなした複数人の鬼がシャグマをがぶって踊る姿をぜひ一度ご覧くださいませ。

山崎 敬子 / Yamazaki keiko

玉川大学 芸術学部講師
早稲田大学メディア文化研究所 招聘研究員
小田原のまちづくり会社「合同会社まち元気小田原」業務推進課長


民俗芸能しいては日本文化の活性を目指し中心市街地活性化事業に取り組んでいる。
元広告業界専門新聞編集長であったことから日本ペンクラブに所属。
現在、広報委員・獄中作家委員などに名を連ね活動している。
(社)鬼ごっこ協会会報などでコラムを担当
所属学会:民俗芸能学会・藝能学会・日本民俗芸能協会ほか