2018.9.18

『鬼ごっこのまち物語り』Vol,22

 
中島 智
羽衣国際大学 現代社会学部 講師

天変地異が相次いだこの夏、山口県周防大島町で行方不明になった2歳児を発見した尾畠春夫さんに一躍注目が集まった。
 
警察・消防など150人態勢で2日間、捜索が続いていた中での発見は、奇跡的ですらあった。自らの経験と勘でこどもを探し出した尾畠さんは、全国各地の災害復興の現場でボランティアとして活躍している方だった。その周囲からは「師匠」と呼ばれていたというが、テレビ画面に映し出された姿は、いたって謙虚。涙を流してこどもの無事を喜ばれていた。
 
その速報を見ていて、何となく連想したのは、宮沢賢治(1896~1933)だ。童話作家や詩人としてよく知られているが、信仰と科学と芸術をつらぬく独自のまなざしから、ふるさと・岩手県花巻の農村振興に尽力した実践の人でもある。「雨ニモマケズ」という詩にあるように、「ミンナニデクノボウトヨバレ/ホメラレモセズ/クニモサレズ」生きることをよしとした賢治さん。「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」(『農民芸術概論』)として、世のため人のために東奔西走した賢治さん自身もデクノボウだった。そんなデクノボウこそまさに尾畠さんそのもののように思われた。
 
自然災害が多発する現在だが、賢治さんの生きた時代もまた、災害の日常化した乱世だった。賢治さんが生まれた明治29年といえば三陸大津波の起きた年。そして、亡くなった昭和8年も、やはり3月に三陸地方大地震が起きた年だった。
 
いつ何が起こる変わらない「想定外」の溢れる時代だからこそ、お金とか肩書ではなく、「その人がどんな人間であるか」(V・E・フランクル著『それでも人生にイエスと言う』)、自分が人間としてどうあるのか、が問われることになると思う。未来に向けてあきらめない、そんな姿をこの国でも賢治さんや尾畠さんが身をもって示してくれたように。
 
そしてもうひとつ。実は、鬼ごっこのあるまちは、多くの賢治さんや尾畠さんが支えているのではないだろうか。そういえば、二人とも茶目っ気たっぷりで、ことばにもあそび心があふれている。これもまた、乱世の時代に大切な心構えなのだろう。そんなしなやかでたくましい心をもった大人がいるまちで育ったこどもが、やがてはレジリエントで(強靭で回復力のある)持続可能なまちを育てることになるに違いない。

中島 智 / Nakajima Tomo

羽衣国際大学 現代社会学部 准教授


1981年滋賀県生まれ。専攻・関心分野:観光学・地域文化政策・子ども文化論・福祉文化学。東京立正短期大学現代コミュニケーション学科専任講師を経て、羽衣国際大学現代社会学部専任講師(京都文教大学総合社会学部非常勤講師を兼務)。「知る前に感じる」「動きながら考える」「遊ぶように生きる」ことを学生たちと実践している。共編著に『新・観光を学ぶ』(八千代出版、2017年)。共著に『こども文化・ビジネスを学ぶ』(八千代出版、2016年)など。
<その他、所属>
一般社団法人東京スポーツクロスラボ 監事