2019.5.22

『鬼ごっこのまち物語り』Vol,23

 
中島 智
羽衣国際大学 現代社会学部 准教授

 
私事ですが、先日生まれたばかりの息子との生活で教わることが多くあります。彼は、まだハイハイをすることもなければ、しゃべることもありません。ただただ大声で泣き、おっぱいを咥え、母乳を吸う赤ちゃん。それはあたかも本能むき出しの野生動物のようです。一瞬一瞬、表情を変えていきます。その表情には生きることへの充実感がみなぎっています。一つひとつを全身で学んでいく赤ちゃん。まさに生きることは学ぶことです。
 
『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社、2018年)の著者・新井紀子氏は、AI時代の子育てには「読解力」と「ゴリラ力」が必要だと述べています。読解力とは意味を理解することで、ゴリラ力とは動物のように育つことだといいます(『毎日新聞』2019年1月28日付)。たしかに、機械的に計算するのではなく、ことばを使って意味を理解し、意欲的に行動できるのが人間です。一方、人間に対してゴリラ力とは意外かもしれませんが、赤ちゃんのそばにいると、言い得て妙に思えてしまうから不思議なものです。
 
AI(人工知能)が人間社会を変化させていくことは間違いないはずですが、そんな時代だからこそ、ゴリラ力と読解力を忘れてはいけないと思います。そして、それらの力を培うのが「鬼ごっこ」ではないでしょうか。鬼ごっこは、世界各地に見られる普遍的な遊びですが、単に運動能力を鍛えるだけでなく、他者と協働するためのコミュニケーションスキルを磨き、創造性を育むトレーニングをするという役目を担ってきたといってよいでしょう。それは「鬼ごっこ力」とでも呼ぶべき生きる力を養い、人間社会を根底で支えてきたのではないでしょうか。
 
これからの時代、AIにすべてを任せることも、AIを怖がることも現実的ではありません。むしろAI時代の潜在的な可能性に光を当てることで、子育て文化は更なる進化を遂げることでしょう。鬼ごっこはそのことを考える際にひとつの手がかりを与えてくれるはずです。

中島 智 / Nakajima Tomo

羽衣国際大学 現代社会学部 准教授


1981年滋賀県生まれ。専攻・関心分野:観光学・地域文化政策・子ども文化論・福祉文化学。東京立正短期大学現代コミュニケーション学科専任講師を経て、羽衣国際大学現代社会学部専任講師(京都文教大学総合社会学部非常勤講師を兼務)。「知る前に感じる」「動きながら考える」「遊ぶように生きる」ことを学生たちと実践している。共編著に『新・観光を学ぶ』(八千代出版、2017年)。共著に『こども文化・ビジネスを学ぶ』(八千代出版、2016年)など。
<その他、所属>
一般社団法人東京スポーツクロスラボ 監事