2020.1.27

『鬼ごっこのまち物語り』Vol,24

 
中島 智
羽衣国際大学 現代社会学部 准教授

 
 
昨年末、山下洋輔スペシャル・カルテットを見に行きました。“円熟味を増す”などという表現を陳腐に感じさせてしまうくらい、遊び心がほとばしるライブでした。唯一無二の音楽家たちが集まって、一人ひとりが自由に奏でながら、いまここならではの音楽が生まれる……そんな音の遊びを支えているのは前のめりの姿勢と卓越した技術ではないでしょうか。思い出したのは、ここ数年、関心を寄せてきた鬼ごっこのある町づくりです。
 
それは人と人、自然や文化の相乗的かつ即興的な関わりによって成り立つような気がします。まちのなかの人と人、様々な環境とのつながりをどう紡いでいくのか、というコミュニケーションのデザインともいえそうです。開発を進めて、地価を高めれば、都市全体が豊かになる。そんな成長の構図を信じて突っ走ってきた戦後の時代でしたが、格差の拡大や環境問題、災害の頻発化など総じてコミュニケーション不全に陥り、幸せを実感しにくくなっています。そうであれば、生活の豊かさを実感できる暮らしやすいまちづくりこそが進められるべきでしょう。
 
さて、巷間よく言われる人口減少・少子高齢化は本当に問題なのでしょうか。これまでの社会のしくみを前提に考えるならば、たしかに問題だらけに違いありません。しかし、ここはひとつ頭を柔らかくして、皆で楽しく生きていく道を考えようではありませんか。前のめりに、そして遊びの技術を追求しつつ、フリージャズのように。
 
「“衣食足りて”物質的な意味での欲望ないし需要が基本的に満たされた社会においては、広い意味での「知的な探求」あるいは「知的好奇心の充足」ということが、人間にとってのおそらく最大の悦びになる」として、「道楽としての研究(または生涯学習)」という考え方が提起されています(広井良典『生命の政治学』岩波現代文庫、2015年、294頁)。単なる生産性向上・働き方改革ではなく、一人ひとりが自分の好きなことを見つけて、それを夢中で探求していくこと。それはどこか全国の鬼ゴッター(鬼ごっこを楽しむ仲間)たちの姿と重なり合います。
 
今年も3月1日に鬼ごっこサミット・研究発表大会が開催されます。テーマは「鬼ごっこのこれから~遊び・ゲーム・スポーツ~」。子どもたちがたくましく、心やさしく育っていく環境(いわば芸術作品)としてのまちが実現してこそ、未来をつくる創造的なアイデアも生まれてくるに違いありません。鬼ごっこから未来がどんな風に見えるのか、今から待ち遠しいです。

 

中島 智 / Nakajima Tomo

羽衣国際大学 現代社会学部 准教授


1981年滋賀県生まれ。専攻・関心分野:観光学・地域文化政策・子ども文化論・福祉文化学。東京立正短期大学現代コミュニケーション学科専任講師を経て、羽衣国際大学現代社会学部専任講師(京都文教大学総合社会学部非常勤講師を兼務)。「知る前に感じる」「動きながら考える」「遊ぶように生きる」ことを学生たちと実践している。共編著に『新・観光を学ぶ』(八千代出版、2017年)。共著に『こども文化・ビジネスを学ぶ』(八千代出版、2016年)など。
<その他、所属>
一般社団法人東京スポーツクロスラボ 監事