2016.12.26

『鬼ごっこのまち物語り』Vol,16

 
中島 智
羽衣国際大学 現代社会学部 講師

「レガシー」(遺産)ということばをよく耳にするようになった。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会をめぐるキーワードで、開催を契機にポジティブな影響を残し、次世代に継承していくものという意味で用いられている。

 連日の報道が示しているように、リオ五輪に沸いた2016年は東京五輪に向けての動きが本格化した年でもあった。実際、「アクション&レガシープラン」が発表され、2020年の大会だけでなく、それに向けた4年間にわたる継続的な取組が重要視されている。文化プログラムすなわち芸術や文化に関わる事業もそのひとつで、実は東京五輪はすでに始まっている。これは東京だけでなく、日本各地で実施されるもので、観光振興や地域活性化のチャンスとしても注目されている。

 ところで、観光学や文化政策を専攻する私にとって、遺産というと、「ヘリテージ」が思い浮かぶ。たとえば世界遺産というときのそれである。「伝統」や「伝承」といった日本語がしっくりくる。「レガシー」(legacy)が先代から受け継ぐ具体的な財産を指すことが多いのに対して、「ヘリテージ」(heritage)は、後世に伝えるべき社会的・歴史的価値を意味するらしい。

 東京五輪におけるレガシーには、競技施設などの有形のインフラだけでなく、文化や教育といった無形のそれも含まれている。ただ、現状では国立競技場問題をはじめゴタゴタの印象が強く、レガシーということばが空疎に聞こえなくもない。それなら、むしろヘリテージを意識すべきではないか。とりわけ文化プログラムでは、「鬼ごっこのある町づくり」がそうであるように、世界遺産級の文化をどう継承していくかをしっかり考える必要がある。その意味でも、「スポーツを文化、教育と融合させ、生き方の創造を探求するものである」とするオリンピズムの理念を今一度、肝に銘じたい。

中島 智 / Nakajima Tomo

羽衣国際大学 現代社会学部 准教授


1981年滋賀県生まれ。専攻・関心分野:観光学・地域文化政策・子ども文化論・福祉文化学。東京立正短期大学現代コミュニケーション学科専任講師を経て、羽衣国際大学現代社会学部専任講師(京都文教大学総合社会学部非常勤講師を兼務)。「知る前に感じる」「動きながら考える」「遊ぶように生きる」ことを学生たちと実践している。共編著に『新・観光を学ぶ』(八千代出版、2017年)。共著に『こども文化・ビジネスを学ぶ』(八千代出版、2016年)など。
<その他、所属>
一般社団法人東京スポーツクロスラボ 監事