2016.9.15

『鬼ごっこのまち物語り』Vol,15

 
中島 智
羽衣国際大学 現代社会学部 講師

リオ五輪が盛り上がるなか、8月8日にスポーツ鬼ごっこ日本代表の合宿が実施された。その一環で鬼ごっこを通した国際交流が行われ、教え子の留学生、ネパール出身の1年生とベトナム出身の2年生の共に男子学生も参加した。実はこのふたり、今年の5月に私の担当するボランティアの講義で実施した「鬼ごっこ体験学習」(協力:鬼ごっこ協会)に参加していた経験者。ただ、その時は開始早々、息切れする女子学生が続出してしまい、スポ鬼はさわりだけで切り上げ、「だるまさんが転んだ」など軽めのアクティビティーでクールダウンした。留学生からすると、何とも物足りなかったと思う。
 
 ところがどっこい、そんなふたりに思う存分カラダを動かせる、願ってもないチャンスが到来したのである。それも日本代表のメンバーと!当日は、羽崎会長による「ことろことろ」の指導も余念がなく、(鬼)「こーとろ、こーとろ、だれとるか」/(親)「だれをとる」/(鬼)「ちょっとみーたらあーとのこ」/(親子)「さぁ、とってみんしゃい」という掛け合いをつけたスペシャル・バージョン。ノリノリの代表メンバーに圧倒されたのか(ことばの問題もあったのだろう)、やや緊張気味の表情。しかし試合がはじまると、うってかわって文字通りの全力プレー。得点する度に全身で嬉しさを表現するふたり。
 
 プレーにさぞや満足したに違いないと感想を聞くと、ふたりは「大学の同級生でもアルバイト先の同僚でもなく、その場で出会った人たちと対話できたのが嬉しかったです」とのこと。カラダを動かすことや勝つこともさることながら、見ず知らずの日本人と対話できたことが嬉しかったようだ。そういえば、仏教を学んでいるという大学生選手が親しく声をかけている姿も見た。日本人にとっても留学生の文化に触れる機会であった。
 
 オリンピック・パラリンピックではメダルの数や経済効果が注目されがちだが、もっと大切なことがある、ということを物語るエピソードだろう。最近のインバウンド観光をとってみても、“爆買い”に象徴される消費型から、文化の魅力に触れる体験型へのシフトが指摘されている。「見る」観光から「する」観光へ、そして双方向の「文化交流」へ。こうした時代の文脈抜きには、平和の祭典といわれる五輪の理念も、あるいはスポーツツーリズムも、砂上の楼閣になってしまうのではないだろうか。

中島 智 / Nakajima Tomo

羽衣国際大学 現代社会学部 准教授


1981年滋賀県生まれ。専攻・関心分野:観光学・地域文化政策・子ども文化論・福祉文化学。東京立正短期大学現代コミュニケーション学科専任講師を経て、羽衣国際大学現代社会学部専任講師(京都文教大学総合社会学部非常勤講師を兼務)。「知る前に感じる」「動きながら考える」「遊ぶように生きる」ことを学生たちと実践している。共編著に『新・観光を学ぶ』(八千代出版、2017年)。共著に『こども文化・ビジネスを学ぶ』(八千代出版、2016年)など。
<その他、所属>
一般社団法人東京スポーツクロスラボ 監事