2016.2.25

『鬼ごっこのまち物語り』Vol,10

 
中島 智
羽衣国際大学 現代社会学部 講師

2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは市民ボランティアの活躍が期待されているが、誰でも簡単にできるボランティアがある。いったい何か。

 表情、である。

 日本を訪れた外国の方から空港や駅、電車内などで出会った人々の無表情な顔に驚いたという声を聞いたことがある。あるいは笑顔であっても、ひきつった不自然な表情に見覚えはないだろうか。たしかに微笑んでいても目が笑っていない。ステレオタイプな議論に与するつもりはないが、もはや東洋の神秘(?!)といっていられない気がする。穏やかな表情なり自然な笑顔は、訪日外国人だけでなく、広く他者に対する最高のプレゼントになり得るだろう。私たちの日常的な表現やコミュニケーションのあり方を今一度、見直す必要がありそうである。振り返ってみると、自分などもいささか忸怩たるを得ない。むしろ、「にらめっこ」をして遊んでいた幼少期に戻りたいくらいだ。

 そういう意味でも鬼ごっこは重要なインフラストラクチャー(社会基盤)になると考えている。私のイメージする人間の本来の姿は、表現する生きもの。それが個人のみならず社会のレベルでもしばしば妨げられている。たとえば、どこものっぺらぼうな再開発された駅前の街並みを歩くとき、そんな思いがわいてくる。

 インターネットに代表されるICT(情報通信技術)のインフラ整備も大切であるが、リアルな対面コミュニケーションと“表現する身体”を育んでいかなければ、私たちが主体性や連帯性、創造性を発揮し、暮らしを誇れる地域を築いていくことは難しくなる。そして、暮らしを誇れる地域には、いのちの再生産と文化の創造的継承が必要である。“表現する身体”が人の心と心をつなぐアーツ(芸術)にならなければならないのである。それには必ずしも抜きん出た才能や感性はいらないはず。ただ無我夢中で物事に取り組み、それを心の底から楽しめたとき、人々をつなぎ、感動を呼ぶアーツが生まれてくるに違いない。 

 私たちが大切にしてきた「以心伝心」という価値観も、実は、こうした“表現する身体”があってはじめて具現化されるのではないだろうか。

中島 智 / Nakajima Tomo

羽衣国際大学 現代社会学部 准教授


1981年滋賀県生まれ。専攻・関心分野:観光学・地域文化政策・子ども文化論・福祉文化学。東京立正短期大学現代コミュニケーション学科専任講師を経て、羽衣国際大学現代社会学部専任講師(京都文教大学総合社会学部非常勤講師を兼務)。「知る前に感じる」「動きながら考える」「遊ぶように生きる」ことを学生たちと実践している。共編著に『新・観光を学ぶ』(八千代出版、2017年)。共著に『こども文化・ビジネスを学ぶ』(八千代出版、2016年)など。
<その他、所属>
一般社団法人東京スポーツクロスラボ 監事