2017.2.7

『鬼ごっこのまち物語り』Vol,17

 
中島 智
東京立正短期大学現代コミュニケーション学科講師

「玄関の鍵をかけない家が東京にある」といったところで、信じられるだろうか。それが本当にあるのだ。八丈島で泊まったある民宿がそうだった。先月、第36回八丈島パブリックロードレースに行ってきた。もともと運動に苦手意識をもっていた僕が、市民マラソン大会に参加するなど思ってもみなかったが、これもたぶんスポーツ鬼ごっこの功徳だろう。授業や地域活動で鬼ごっこを活用してきたのはもちろんだが、何よりも、活動を始めてからというもの、身体を動かすことの楽しさを心の底から実感できるようになってきた。
 
その経験の一端は、1月29日に行われた「プラススポーツのためのワークショップ」(一般社団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター主催)で少し報告した。当日は、スポーツを通した社会課題の解決について学びを深めるとともに、障がいのある方と一緒にふうせんバレーとスポーツ鬼ごっこを楽しんだ。ゆっくりとした動作が多く、刺激が少ないように思い込んでいたが、実際に体験してみるとメンバー皆で息を合わせながらのスリリングなプレーの連続で、実に爽快であった。
 
人が何かを理解する時というのは、理性による認識だけでなく、自らの身体実感が伴っているはずである。その身体実感が自らのことばを裏打ちし、他者との信頼関係を紡ぎだすことになる。とすれば、身体実感の欠けたことばが世の中を漂流すると、個人の感情には訴えられたとしても、人と人が支えあう社会を築くことはできないのではなかろうか。これは、ツイッターやSNSが世論の形成に強い影響を与えるようになった時代にあって、考えてみるべき問題だと思う。
 
情報過剰で時代状況が目まぐるしく変化する昨今ではあるが、それを超越して、壊れかけた社会の関係性を再生していく可能性が、スポーツにはあると信じている。これからの社会をたくましく生き抜いてゆくためにも、自分の心と身体をつなぎ、人間同士の信頼関係を育む文化的営みとしてスポーツを育てていくことが必要だろう。そして、その彼岸に「鍵をかけない家」がふたたび日常風景になる時代が来ることを願わずにはいられない。

中島 智 / Nakajima Tomo

東京立正短期大学現代コミュニケーション学科講師


1981年滋賀県生まれ。文化政策・観光学を専攻し、地域文化と観光などに関する教育・研究に取り組む。暮らしを誇れる地域の実現をめざし、すぎなみ地域大学(杉並区)などでも活動中。「知る前に感じる」「動きながら考える」「遊ぶように生きる」ことを学生たちと実践している。共著に『観光を学ぶ』(八千代出版、2015年)、『観光文化と地元学』(古今書院、2011年)など。