『鬼ごっこのまち物語り』Vol,13
2016年6月3日(金)
中島 智
東京立正短期大学現代コミュニケーション学科講師
私は大学で「ボランティア」という講義を担当しており、そこでは、対話→気づき→行動という参加型学習の考え方をもとに、地域活動に関わるテーマを取り上げている。その一環として鬼ごっこ協会の協力を仰ぎ、鬼ごっこの体験学習を行うことが年中行事になっている。3年目の今年は、ネパール出身とベトナム出身の留学生2人を含む8人の学生たちとさまざまな鬼ごっこを通した国際交流。スポーツ鬼ごっこはもちろんのこと、1300年前から伝承されてきた「ことろことろ」、「ドンじゃんけん」、「だるまさんが転んだ」などで初夏の公園を走り回った。
ボランティアの講義でなぜ鬼ごっこを活用するのかといえば、体を動かすことを楽しみながら、コミュニケーションについて考えてもらいたいからである。コミュニケーションというと、ディベートのように相手を論理で論破する、いわば言語バトルを連想される方もおられるだろう。しかし、もっと大切なことがあると思う。それは、たとえ自分と異なる価値観をもつ人、また、ことばの通じない相手であっても、敬意をもって相手と向き合うこと。寛容な姿勢で臨む対話にはエネルギーがいる。それを身につけるためには、自分の体の中から衝き動かされる体験をすることが効果的だ。鬼ごっこにはそんな機会と場が豊富にある。
もうひとつ、学生たちの鬼ごっこ体験でいつも感じるのは、他者との対話を進めるためには、単に言語だけでなく、身体表現が欠かせないということである。身体表現には、その人がもつ固有の文化が体現される。ことばの背景にある文化という文脈を知り、理解することがとりわけグローバル化した社会では必要なのではないだろうか。鬼ごっこを通して日本文化を学ぶこともまた然り(留学生のみならず日本人学生にとっても)。そこにスポーツが実践できるひとつの貢献があるに違いない。
プロフィール
中島 智 Nakajima Tomo
東京立正短期大学現代コミュニケーション学科講師。
1981年滋賀県生まれ。文化政策・観光学を専攻し、地域文化と観光などに関する教育・研究に取り組む。暮らしを誇れる地域の実現をめざし、すぎなみ地域大学(杉並区)などでも活動中。「知る前に感じる」「動きながら考える」「遊ぶように生きる」ことを学生たちと実践している。共著に『観光を学ぶ』(八千代出版、2015年)、『観光文化と地元学』(古今書院、2011年)など。
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