『鬼ごっこのまち物語り』Vol,4

2015年7月23日(木)
中島 智
東京立正短期大学現代コミュニケーション学科講師




 「人類が家族を作り、それを基本の単位として社会を構築してきたのは、人間にもゴリラのような平和主義的、平等主義的な側面が備わっていたからだと思います。もともとは人間も、ゴリラと同じように負けるものを作らなかったのでしょう。しかし、現代の人間はいつしかゴリラ的な価値観をなくし、サル的勝ち好みの社会に突き進んでいるように私には見えます」


 出典は、山極寿一著『「サル化」する人間社会』(集英社インターナショナル、168頁)。一口に霊長類といっても、サルとゴリラでは全く違うというわけで、山極氏はこう対比する(※1)。ゴリラ社会は上下関係や勝ち負けがなく、全員が対等に問題を解決する。それに対して、サル社会は序列をつくり、個体の利益を最大化する、と。効率や個人の自由を重視することが社会の発展につながるならいい。問題は、そこに、人間らしさを阻害し、社会を不安定化させる落とし穴があることだろう。


 冒頭の一節にふれたとき、私は子どものスポーツの現状を想起した。メディアによって劇的に演出される中で、ジュニアアスリートの育成も進むスポーツ。それで子どものスポーツ環境が良くなったのかというと、一つの種目に偏っていることや勝利至上主義に走りがちなことが懸念されてもいる。むろん、子どもの遊び経験自体が貧しくなっているという問題もある。勝敗を競う楽しさだけでなく、他人の気持ちになって考えるといった人間の社会性を育むことができないと、“スポーツマンシップ”という言葉も死語になってしまう。つまりは、山極氏がいう「ゴリラ的価値観」をなくし、“「サル化」するスポーツ”になりかねないということだ(サルには失礼だが)。


 ただ、私たちには鬼ごっこがある。鬼から逃げる子、その子を守る親という三すくみの構図は、見返りを求めずに世話をする家族と、その枠を超えた地域共同体という、二つの異なる原理の集団を両立させる人間社会の特徴を表現している気がする。深読みだろうか。だが、これ以上に深いスポーツを、私は見つけられそうもない。


※1…山極氏によると、サルとゴリラの違いは遺伝子レベルで約3%。だが、ヒトとゴリラの違いは約2%以下である。(パーソナリティー・蒲田健『ラジオ版 学問ノススメ』JFN、 2014年10月1日) 

プロフィール

中島 智 Nakajima Tomo

東京立正短期大学現代コミュニケーション学科講師。
1981年滋賀県生まれ。文化政策・観光学を専攻し、地域文化と観光などに関する教育・研究に取り組む。暮らしを誇れる地域の実現をめざし、すぎなみ地域大学(杉並区)などでも活動中。「知る前に感じる」「動きながら考える」「遊ぶように生きる」ことを学生たちと実践している。共著に『観光を学ぶ』(八千代出版、2015年)、『観光文化と地元学』(古今書院、2011年)など。

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