『鬼ごっこのまち物語り』Vol,5

2015年8月27日(木)
中島 智
東京立正短期大学現代コミュニケーション学科講師




 「夏は夜」と清少納言は『枕草子』の中で書いたが、私にはキャンプ、そしてスターウォッチングである。今年も7月末に学生たちと長野県東御市へ行ってきた。1日目は上信越高原国立公園のひとつ、標高2000mの池の平湿原を歩き、2日目は軽井沢の街を楽しむ1泊2日の研修旅行。その目玉がスターウォッチングだった。
惜しくも星空は雲間から僅かに見える程度だったが、同僚と夜の原っぱに腰を下ろした。「あまり見えませんね。」そう落胆して呟く私に、彼はいう。「夜のしじまに耳を傾けてみてください」と。すると、聞こえてくる虫の声、風の音、動物の鳴き声……。一気に感覚の回路がひらいたように感じると、幼少の頃の遊びを思い出した。鬼ごっこである。たいてい自然の中で、土の上を走り回っていたのである。


 思えばセミのぬけがらを見つけたのも、鬼ごっこをしていたときだった。土の匂い、草の感触、頬をなでる風を確かめながら少年は、自分を取り巻くすべてのものへの感受性を研ぎ澄ましていたのではなかったか。海洋生物学者で環境問題に先鞭をつけた作家のレイチェル・カーソンのいう「センス・オブ・ワンダー」である。たしかにワクワク感と安堵感、いのちの不思議を感得する時間を過ごした気がする。カーソンはいう。「「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない…(略)…子どもたちがであう事実のひとつひとつが、やがて知識や知恵を生み出す種子だとしたら、さまざまな情報や豊かな感受性は、この種子をはぐくむ肥沃な土壌です。幼い子ども時代は、この土壌を耕すときです。」(レイチェル・カーソン、上遠恵子訳『センス・オブ・ワンダー』新潮社、1996年、24頁)


 大人になった私はそんな理屈をこねたくなるのだが、子どもに能書きは無用。まずは、自然の中で鬼ごっこを楽しんでもらいたい。きっとその思い出の豊かさがしなやかに生きる力になるはずだから。

プロフィール

中島 智 Nakajima Tomo

東京立正短期大学現代コミュニケーション学科講師。
1981年滋賀県生まれ。文化政策・観光学を専攻し、地域文化と観光などに関する教育・研究に取り組む。暮らしを誇れる地域の実現をめざし、すぎなみ地域大学(杉並区)などでも活動中。「知る前に感じる」「動きながら考える」「遊ぶように生きる」ことを学生たちと実践している。共著に『観光を学ぶ』(八千代出版、2015年)、『観光文化と地元学』(古今書院、2011年)など。

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